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第7話 キリスト教
アニミズムも根強く
ダヤク諸族は、宗教に関していえば、もともとはアニミズムやシャーマニズムであった。サラワクのイバン族
などは今なお半数がそのような民族宗教に頼っている。バサップ、ティドン、パシール族のようにイスラム教
に入った部族もある。しかし、その他は,1930年代にやってきたキリスト教ミッションにより、大部分がキリ
スト教に改宗している。例えば、カヤン川の最上流域はクニャ族とカヤン族の故郷だが,そこへは1936年,ア
メリカの宣教師ドブリエル等が入り、プロテスタントを広めた。
南カリマンタンやマハカム川南岸の奥地にはオランダの宣教師が入り、そちらはカソリックが多いそうだ。
マハカム川支流のクリンジョウ川では,小さな村に両系統の教会が別々にあったりする。アメリカとイギリスが
建てたプロテスタント教会はおそろしく大きく立派だが、カソリック教会は掘っ立て小屋同然である。オランダ
とイタリアの援助なのだそうだ。
 短期間でキリスト教に変わってしまったことが、私には理解できなかったが、「以前は神様が多すぎてね、今
はイエス様に祈りさえすれば良い」と、古老が説明してくれた。実際はアニミズムも根強くあり、収穫への祈り,
病気治癒の祈祷などは昔のままだ。そのことは、神仏両拝の日本人の私には理解しやすかった。
 マレーシアやインドネシアでは、無宗教は、すなわち無政府主義者=危険人物である。無宗教の人が
存在すること自体、信じられない世界である。入国カードに宗教欄があるが、信心が浅いからと「無宗教」
なんて書くと、とんでもないことになる。入国拒否どころか、逮捕もありうるのだ。アニミズム・シャーマ
ニズムを宗教と見なさない人も多いから、古来の宗教に固執している人は、表には出ないが,変人や未開
人扱いされる。残念なことだ。

洗礼名で分かる信仰の違い
宗教には洗礼名がある。だから、名前を聞けば、たいてい、その人の属する宗教が分かる。例えば、モハマド、
アリフィン、アブドラ、ソフィアンなどはイスラム教徒。ビン(誰々の息子)、ビンテ(誰々の娘)をつけて、
その後ろに父親の名を名乗る。
 アグスティン、パトリック、ポール、ペーター、アントニウス、ヤコブス、パウロなどはクリスチャンである。
同名がどこにでもいるから、職業、苗字、村名を告げなければ、なかなか本人までたどり着くことができない。
 さて、キリスト教に改宗したダヤクは,具体的には、どのような生活をしているのだろう。毎日の習慣では,
3度の食事の際、祈りをする。特に夕食では,今日の出来事を神に報告し、食事にありつけたことへの感謝を表す。
たいてい、主人1人がしゃべり、最後に全員が十字をきってアーメンを唱える。日曜日には礼拝がある。教会に皆
が集まり、神父があいさつの後、「この1週間、健康で過ごせたか。変わったことはなかったか」といった対話が
続き、お知らせなどもある。そして、しばらく、聖書の一部の解説をした後、最後は賛美歌の合唱である。日曜学
校聖楽隊とでも言うのか、青年や婦人の中から選ばれた人たちがギターなどの楽器を扱い、皆で歌うのである。
クリスマスは1年で1番大切な行事で、ほとんどの人が村へ戻る。礼拝はもちろん、伝統舞踊のすべてが登場し,
祭りは1週間続く。
 日本へのキリスト教伝来は1549年、イスパニアの宣教師フランシスコ・ザビエルによるものである。沖縄へは
1622年、石垣島の富崎に渡来した南蛮船によって伝えられたと言う。ボルネオ島奥地への伝来は、その300年以上
も後である。いかに辺境の地であったかと言うことが理解できよう。

第8話 ジュゴン
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