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八重山にもワニの伝説
 昔の西表は観光客もなく静かな島であった。浦内川や仲間川のマングローブに入ると、ワニがいるような気がして舟から身を乗り出してのぞき込んだり、僅かに水面上に出た流木がワニに見えてきたりした。
石垣島に桴海という村があった。ここでは夜な夜なワニが村へ現れて人を食うために、とうとう全員が山の手に移住しなければならなかったという伝説がある。西表島でも、沖縄からやってきた漁師が鹿川湾で捕らえたという話が残っている。
南西諸島におけるワニの具体的な記録は2度ある。1度は奄美大島の名瀬港においてであり、これは南方から持ってきたものが船から逃げ出したのだと分かった。1976年だったか、石垣島の於茂登岳近くで捕まったものは,南米産のカイマンワニであった。ペットが捨てられたか逃げ出したのだろう。
「ワニを見た」という話を時々聞いたが、よくよく検討してみると、オオウナギやキシノウエトカゲを錯覚したようである。昔の話に登場するワニは、フカやサメのことだったのかも知れない。実際のところ,八重山にワニはいない。
ワニを見るために、小舟を雇って夜,ボルネオのマングローブへ入った。ライトを当てると、水際でダイダイ色に反射するのはワニの眼。静止して眼の部分だけを出しているので、一見、水に座ったカエルのようだ。スーッと移動したり、音もなく潜ってしまうこともあるが、驚いた瞬間はバシャーンと音をたて、潜る反動で体の大部分が現れる。腹面のうろこが黄色に光り、それは巨大な魚のように見える。

5メートル超すイリエワニ
 ボルネオのワニは,ほとんどがイリエワニである。インドから中国亜熱帯地域、マレーシア半島、フィリピン、ボルネオ、ニューギニア、オーストラリア北部に分布し、池沼や大きな川、塩分を含んだ水域でもみられる。時には外洋へも出ることが知られている。
ワニは水中では、わずかに目と鼻を出すだけで水面下に浮かんでいるが、からだの安定を保つために胃の中に石が入っている。石は体の重心より下のところにあって,肺の浮力とつりあっている。特に頭でっかちの子ワニは、この石がないと釣り合いがとれないようだ。5・を超すワニでは2~3・・もの石が入っているという。
生まれてから1年は、カエル、やご、カニなどの小動物を食べる。成長すると、それだけでは食欲を満たせなくなり、貝類や魚類も食べるようになる。成体では魚類のほかに哺乳類や鳥類までも捕らえる。まれには人も襲うことがあるようだ。
1996年のことだが、東カリマンタンのスンガタ川で、水浴中の老婆が襲われた。ワニは老婆をくわえたまま水中に没してしまったが、1週間後に捕らえられた。村人たちが腹を割く、老婆のサルーン(腰巻)や指輪が出てきたそうだ。近頃ではめずらしく、5・を超す大きな個体で、村人や新聞社が博物館へ連絡をした。ところが、館員が重い腰を上げたのは1週間、すでに埋められており、掘って回収は出来たものの、歯はすべて無くなっていた。地方では、ワニや獣の歯を持っていると力が備わると信じられているのである。現在、このワニは州都サマリンダに近いテンガロン博物館に収められている。
ところで、カリマンタンには、ワニと話ができる人がいる。スンガタ川での事故の際も、網やわなを掛けても捕まらないので、最後には、そういう人を呼んできてワニを呼びだしたそうだ。私は、そういう力を持つといわれている人と知り合いになったが、今ではワニもいないであろうと思われる村だったから、頼むこともしなかった。
第20話 米と御飯
第19話 ワニの話