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無人島のアオウミガメ
 沖縄の海にはアカウミガメ、アオウミガメ、タイマイ、オサガメの4種類のカメがいる。 西表島で生活していた頃,南海岸の大浜で、何回かアカウミガメの産卵を観察したことがある。アカウミガメは他のウミガメより寒い地方で繁殖する種類である。
もう8年も前になるが、カメの産卵を見に、息子と一緒に無人島を訪ねたことがある。今は観光開発されたサンガラッキ島である。ボートをチャーターして、夕方、島へ渡る。周囲2・・の平らな島だ。砂浜にはウミガメが這った跡がそこかしこにあった。「これは半端な数じゃないぞ」。暗くなるのが待ち遠しい。ただし8時には帰らねばならない。夜中は海が荒れて危険なのだ。上陸は何時だろうか。私は潮を計算し、「朝方、4時過ぎだ」と言った。「えっ、見られないの」。息子は失望を隠せない。「ただね,今夜7時に来る可能性はある」。もちろん、ここでの観察は初めてだが、西表島の経験では、ウミガメは産卵期の大潮の頃、つまり旧暦の12~19日と、27~3日くらいの間の夜にだけ上陸する。ただし15日はほとんど来ない。満潮を挟んだ4時間の間に上陸し、産卵を済ませて1時間足らずで帰ってしまう。
 今日は旧暦の1日。つまり満潮は午前と午後の6時。6時半はまだ明るさが残る。来るとなれば7~8時。それと朝方4~6時の間だ。西表島の経験が当てはまるかどうか分からないが、間近に迫ったチャンスをつぶさないようにしよう。
 6時45分。周囲はすでに真っ暗。「別の浜を探す」と、舟頭は電灯を持って出かけた。
 7時。「僕も行く」と、息子が出て行った。「いたら電灯を振ってくれ」。私は祈る気持ちで見送った。

産卵の無事祈る
 ところが、数分も経たないうちにライトが点灯し大きく弧を描いた。100・も離れていない。「まさか」と思ったが、私はカメラを抱え裸足で走った。すると、どうだろう。ウミガメが砂浜を上がりきり、グンバイヒルガオが茂る草地を、さらに奥へ進んでいるところであった。1ストロークごとに砂がパッと散る。大きなやつだ。甲長はゆうに1・はある。甲羅の模様で見るとアオウミガメのようだ。アオウミガメは日本では古くから正覚坊と呼ばれ食用にもしてきた。専ら海藻を食べるウミガメで広く太平洋、インド洋、大西洋に分布する。最大、甲長1.4・にもなるという。
 散乱する流木や障害物にぶつかっては向きをかえ、それでも奥の海岸林を目指す。もうこのあたりは満潮でも水をかぶらない所だ。時折、止まっては穴掘りをする。だが、じきにやめてしまう。何か硬いものでもあるのだろうか。それとも私たちがうっとうしいのか。
 「もう、よそうよ」。息子が言う。「そうだな」。15分も付きまとっていた私たちはその場を離れた。戻る途中,真新しい跡を見つけた。今しがた私が駆けてきた所だ。あとを追ってみる。「いた」。先ほどより一回り大きい。やはりアオウミガメである。しばらく待ってみるが、穴を掘るだけで、なかなか産卵しない。
 「4頭いるぞ」。舟頭が戻って来た。しかし、すでに8時近い。少し待つだけで、じきに産卵の一大シーンが観察できることは確かなのだが・・・。しかし、もう良い。それでなくても密漁や卵の盗掘で、生きていくのに精一杯なのだ。せめて上陸した時だけでも無事に産卵して欲しい。「帰ろう」という一言に、息子も同意してくれた。
 待機していたボートを呼び、8時過ぎに島を離れる。大海原の無灯火走行に不安もよぎるが、久々のドラマに私の心は満ち足りていた。

第22話 国内移住政策

第21話 ウミガメの話