水棲の食虫類
ボルネオには8種の食虫類が分布する。7種類は森林の地上で生活しているが、唯一カワネズミは渓流で生活する。
2002年6月末、クロッカー山脈へ調査に入った。東マレーシア最大の面積を持つ州立公園である。私は当時、JICA専門家として、マレーシア政府の要請で、クロッカー山脈公園の動物相を調査していた。
「かごワナ2個を川縁に置く。餌は魚。いないかも知れないが,カワネズミがターゲット」。調査ノートにはそう書いた。捕獲に並々ならぬ執念を燃やしていたのである。
一夜明けての見回り。かごワナに黒灰色の塊があった。「どうして餌が落ちたのだろう」。不審に思って近づくと、それがわずかに動くのである。「カワネズミだ。いや、まさか」。と思いながら、よくよく見るが間違いない。突出した顔、短く密生した体毛。確かにカワネズミである。私は信じられない思いだった。「いるとしたらここだ」。長年の勘でセットしたワナに1晩で掛かったのである。B
初の写真撮影に成功
カワネズミはボルネオでは大変めずらしい動物で、これまでキナバル山とトゥルスマディ山で数個体が捕獲されているだけだ。クロッカー山脈での記録はない。村人からは見たと言う話も聞くが、ボルネオでは半世紀以上も確かな記録はない。
翌日、2頭目を捕獲。次の夜は捕らえたものの、ワナの網目が大きくて逃げられてしまった。しかし、調査中、写真撮影にも成功した。論理立てた調査で、予想通りの成果が上がるのは仕事冥利につきる。
カワネズミは体長(頭から尻まで)10センチ、体重25~40グラムの小さな動物で、短くて柔らかい毛が全身を密に覆い、冷たい水の中での生活に耐えられるようになっている。全体が暗褐色だが,水中では,綿毛の間に空気の泡が残るので、銀色に光って見える。昼も夜も食べることとわずかな休息に専念している。半日も絶食すると死んでしまうのである。渓流では流れの縁を泳いだり、土や石の上を走って上流へ向かい、下りは流れに身を任せている。魚やカニをいとも簡単に捕らえるし、吻を左右にさかんに振って、底の小石の中に潜んでいる水生昆虫を捕らえたりしている。
日本では本州から九州に分布するが、山地の渓流に棲む動物で、沖縄からは記録がない。関東地方では渓流釣りの好きな人ならば一度は見たことのある動物だろう。山あいにあるヤマメやニジマスの養殖場にも頻繁に出没して、自分のからだより大きな魚をかすめ取っていく。
カワネズミはヒマラヤから中国南部、台湾、東南アジア、スマトラ、ボルネオに分布、現在のところ、すべて同一種に扱われている。しかし、研究が進めば数種類に分けられることは確実で、DNA解析による分類が、今、北海道大学や大阪市立大学で計画されている。
第27話
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