5種類の野生ネコ生息
ヤマネコは、日本では対馬と西表島に分布するが、ボルネオには5種類ものヤマネコが生息する。だからと言って、簡単に会えるわけではなく、殆ど情報のない種類もある。
もっとも普通に見られるのがベンガルヤマネコ。本種は分布が広く、インド北部から西アジア、ロシア東部、朝鮮半島、台湾、東南アジア、スマトラ、ジャワ、バリなどで知られている。ボルネオでもほぼ全域に分布,低地から山地にかけて生息し,森林だけでなく原野に近いような環境で見ることさえある。イエネコとほぼ同じ大きさで、体重2.5・・。黄褐色の地色に黒斑が全体に分布し、顔と背中では帯状の模様になっている。対馬に生息するツシマヤマネコもベンガルヤマネコの1亜種だとされている。イリオモテヤマネコとの関係は後で述べるとして,両種は大きさから特徴、生活の面で大変よく似ている。
ウンピョウは体重23・・にもなる大型のネコである。樹上でサルや鳥類を襲ったり、小型哺乳類を地上で待ち伏せしたりする。
マライヤマネコは、魚やエビ、カニなど水辺の生き物を主食とし、川辺や湿地帯周辺に棲む。一見、イエネコを感じさせる小型のネコである。
マーブルドキャットはウンピョウを小さくしたようなヤマネコで、特に尾が長い。
ボルネオヤマネコは、ボルネオ島が大陸から分離した後、すなわち、1万5,000年か1万年前以降に、島内で種分化を遂げた固有種である。全身赤褐色で、特に斑紋はない。極めて珍しいネコで、1855年の最初の記録以来、標本は12例、それも、完全な標本はほとんどない。このうち2例は、直接私が関係している。
「イリオモテ」に類似
ボルネオ、私が一番会いたいと思ってきたのが、ボルネオヤマネコである。15年目にして実現し、サバ州で最初の記録となった。しかも2頭である。しかし、自然の姿ではなく、村人に生け捕りにされたもので喜びも半減してしまった。私は、この2頭を放すべく役所と掛け合ったが、実現の運びとなっと時は、すでに動物商のケージの中で死んでいた。
ベンガルヤマネコ、マーブルドキャット、ボルネオヤマネコは,ほぼ同じくらいの大きさで、食べ物もネズミや鳥類、ヘビ、カエル、大型の昆虫類などと、お互い良く似ている。ただ、ベンガルヤマネコは里近くの開けた森林。マーブルドキャットは深い森林を好んで棲み、他の2種に比べて樹上性が強いような感じがする。そして、ボルネオヤマネコは標高400・以上の森林に棲み、他のネコと重複しない分布をしているように思われる。
イリオモテヤマネコについて、私の結論は、それまでに言われているほど古いネコではなく、現存するネコの一員だということである。イリオモテヤマネコは旧大陸に分布するヤマネコの特徴を備えており、現存するヤマネコ類と基本的に変わりない。その上で、このネコを特徴づける固有の行動や姿勢が見られ、それは西表島の植生という生活環境と、食物となる西表島の動物相への適応を意味するのであろうと考えられる。
現在もっとも妥当とされている分類は、世界自然保護連合・種保存委員会ネコ専門家グループによるものであろう。染色体やDNAによる比較研究や寄生虫学からの結論である。この分類は1996年刊行の『野生ネコ』(原著は英文)に収められているが、そこでは、イリオモテヤマネコはベンガルヤマネコの1亜種の扱いになっている。分かり易く言えば、イリオモテヤマネコという独立種は存在しないという意味で、同じ種類がボルネオにもいるという話になる。ただ、私は、イリオモテヤマネコは西表島だけに分布していること、斑紋・歯数・頭骨に、ベンガルヤマネコには見られない特徴があることなどから、ベンガルヤマネコ属の独立種、イリオモテヤマネコとして扱うことが妥当だと考えている。