中国料理の材料
「ツバメ」には2つのグループがある。1つはツバメ、英語「スワロー」である。沖縄でふつうに見ることができるのは、ツバメとリュウキュウツバメ。いずれも夏鳥として渡来し営巣するが,冬は南方で過ごす。よく電線や木の小枝に止まっているツバメである。
もう1つはアマツバメ、英語では「スイフト」と呼んでおり、日本ではアマツバメやヒメアマツバメが良く知られている。4本の指が前を向いており、爪が強く握力も強いので、樹幹や崖に垂直に止まることが出来るが、電線や小枝に止まることはない。
このアマツバメの中にアナツバメと呼ばれるグループがある。アナツバメの仲間は、多くがインドからオーストラリアにかけて分布し、ボルネオ島にも5種類前後がいるようである。洞穴の中、海沿いの断崖、滝がかかる岸壁などに営巣する。
鳥の多くは巣作りの際の接着剤として唾液を用いるようだが、アナツバメの仲間は、唾液腺からの分泌物を巣の材料としても使う。これだけで巣をつくる種類もある。唾液は固まると白い半透明の薄いビニルのようになるが、これが中華料理の燕巣スープの材料として珍重されるのである。なんでも催淫作用があるというのである。
サバ州のゴマントンやマダイ、サラワク北部のニアは、燕巣採集では良く知られた洞穴である。洞床から60・もある天井にロープやはしごを架け、命知らずの男たちがよじ登っては、燕巣をかじり取っている。燕巣は色によって白、黒、コケの3つに大別される。白は唾液を多量に含んだもので、一番価値のあるものとして高値で取り引される。黒にはアナツバメ自身の羽毛が含まれている。これは温湯に一昼夜浸して両者を分離する。コケは巣の材料に大量のコケを含んでおり、価値が無いから採集しない。
命がけの採集
燕巣採集は、業者が入札で国から採集権を買い取り、多数の人夫をやとって行う。業者は中国系住民、人夫はプナンおよびダヤクといった先住民である。現金収入の少ない彼らには破格の高収入だが、それだけに危険が多く、以前は頻繁に死者がでたようである。昔は竹の一本ばしごを洞壁に立てかけたり、天井からつるした籐づるを伝って登っていた。どうやってつるしたのだろう。それは想像もできないことである。洞によっては天井に穴があり、山を伝って洞の上に出て、そこからつるしたところもあるが、その他は、やはり洞壁を下から登っていったのである。このことはニア洞穴を訪ねると理解できる。そこでは岩の割れ目に角材を差し込み固定させ、たくみに組み合わせながら天井に達している。つなぎ合わせた角材が天井からつり下げられ、洞床近くにまで達しているものもある。材はテツボクなので、なかば永久的に腐らないが、特別に重いテツボクをどうやって持ち上げたのかと考えると、またまた想像もつかないことになってしまう。人間すごいことをするものだと恐ろしくなる。ふつう、収穫は年2回おこない、1回は5日から1週間である。
アナツバメの巣作りは最短40日、平均で2ヶ月かかる。産卵から孵化までが28日。給餌は2ヶ月。2回のヒナが巣立つまで5~6ヶ月を要するということである。
燕巣採集は、まず巣が完成すると、これを取り上げてしまう。するとアナツバメは再度巣作りをする。このときは産卵、子育てを自然のままにまかせる。そして、ヒナが巣立ったあとに残った巣をとるというものである。「繁殖、巣立ちは保証しているのだから何の悪影響もない」と関係者は言う。しかし、最初の巣をとった直後はアナツバメがパニックに陥り、産み場のなくなった卵が洞床に無数に散乱すると人夫が話してくれた。こんな話を聞くと、高価なこともさることながら、燕巣スープをわざわざ味わってみる気にはなれない。
第38話 行事
|