巨大な四つ手網
ボルネオには沖縄では見ることが出来ない淡水漁業の村がある。それもそのはず,例えばマハカム川中流域には,東京の山手線内の面積,160平方・・とほぼ同じジュンパン湖をはじめ,私は詳しく数えたわけではないが,大小100近い湖沼があり,総面積は600平方・・くらいになるだろう。東京都23区に匹敵し,沖縄本島の半分に及ぶ面積である。
湖沼ではえりや四つ手網を使った漁が行われる。四つ手網は竹竿を十字に組んで,その先端に網の四隅を結びつけたものである。1辺が5・を超す大型のもので,ふつう大型筏に設置し,移動することも出来る。
川沿いでは筌(うけ)や置き針,定置網による漁が普通だ。ほとんど設置したままにしておき,1日1回,見まわりをする。湖沼でも河川でも行われるのが投網。日本と同じく網を投げてロープでたぐり寄せる方法であるが,浅い沼や池ではたぐり寄せることはせず,広がった網の上から魚を押さえて手づかみにする。
スマヤン湖の奥にあるムリンタン村を訪ねた。湖が,乾季でもないのに僅かな水路を残して干上がっている。船では進むことが出来ないので,やむを得ず,小舟を雇いなおした。
湖の入口に貨物船がいた。そこへ,小舟がつぎつぎとやって来ては船に横付けになり,魚の干物を移しかえている。十分深ければ貨物船が奥まで入り込んで,村から直接買い込むはずの荷物である。
エビ・イカ以外は海に返す
私を乗せた小舟は,涼風をきって疾走する。小魚がポンポン飛び込んでくる。魚わく湖。実に豊かな自然の恵みなのだ。いたるところ,・・えりが仕掛けられているが,湖が干上がっており,役にたっていない。ムリンタンは南カリマンタンからの入植者による純漁村で,淡水魚の干物を作っている。男たちは漁へ,女こどもは朝から晩までいかだに座りこんで,小魚の腹を裂き,はらわたをかき出している。魚はコイ科とナマズの仲間が多い。出来上がった干物はすべてマハカム川を下りサマリンダやバリクパパンへ出荷される。
漁師と知り合いになり,いつでも海へ行けるようになった。ある時,「バガンを見たい」と頼んだら,「いいよ。ただ,漁は昼はやらないよ」と言われた。バガンとは沖合いに設置した特大の四つ手網である。見るだけではつまらないから,その代り途中で底引き漁をやり,ドゥルンゲ(定置網)にも回ろうということになった。
岸から500・ばかり離れた時,漁師はおもりの鉄板を2つ,海に下ろした。2つのおもりの間には獲物を集める網の筒があり,それに引きずられて平たい網がするすると沈んでいった。船はずっと走らせている
1時間ばかりして引き上げると,小魚に混じって,イカ,エビ,小ダコ,アッキガイ,ツキヒガイ,ヒトデの仲間までどっさりと入っていた。私たちはクルマエビとイカだけを拾い上げ,残りは海へ返した。海水で洗い,用意した酢としょうゆで踊り食いだ。
バガンは上底が8~10・四方,下底が12~15・四方,海底からの高さが10~20・もある台形をした櫓である。上に番小屋があり,一晩中,集魚灯を垂らす。気化させた灯油を燃やすもので,強烈に明るい。翌朝の未明に,丸太を使って沈めてあった網を巻き上げ,魚をすくいあげるのである。
番小屋にもぐり込んで下を覗くと,真っ青な水を透かして小魚の群れが見えた。この次は一杯やりながら夜明かしだな,私はそんなぜいたくな夢を見ていた。
第42話 動物に助けられる話
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