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乱開発の隠れ蓑
 国際連合は,2002年を「国際エコツーリズム年」に指定し,エコツーリズムに対する認識を世界的に高める運動を展開している。その一環として10月末には,ボルネオ島のサバで,「国際エコツーリズム会議」が開催され,日本からも多くの参加者が集まった。
サバ州は内陸部・海洋部ともに自然の魅力に富んでおり,州政府は観光分野を経済・社会開発の柱の1つとして位置づけている。中でもエコツールズムをキャッチフレーズとし,近年,リゾート・ホテル建設と交通整備を中心とした関連インフラの整備も進みつつある。サバには南アジア最高峰で2000年に世界遺産に登録されたキナバル山を含む7つの州立公園のほか,野生動物保護区などがある。
サバ州政府はエコツーリズムを,「自然を楽しみ味わうために,荒廃していない自然の残る地域を環境に対する責任を持って訪れる旅行で,保存を促進し,環境に及ぼす影響が少なく,地域の住民にとっても社会的経済的に恩恵をもたらすもの」と規定している。
 しかし,現状は「乱開発の隠れ蓑」と,「観光増収」のための戦略に過ぎない感がある。
キナバタンガン下流生物サンクチュアリは,ボルネオ島固有のテングザルに必ず会える場所である。野生のオランウータンに会う可能性が高いし,40頭からなるアジアゾウとの遭遇もある。しかし,それは,ここが開発で追われた動物の駆け込み寺になっているからである。周辺の森林は,15年前までは原生林であったが,あっという間にアブラヤシ農園に変わってしまった。ボートから見ると,薄い森の向こうにアブラヤシ農園や原野が広がっているのが見えている。

原点は身近な自然に
 ダヌムバレーは,原生の熱帯多雨林を見るために訪れる人も多い場所だ。日本であれば「御神木」と呼ばれるような巨木が林立する保護区に入ると,それに圧倒されて,自然の素晴らしさだけが焼き付いてしまう。しかし,その限られた森林に到達するために,延々3時間も荒れた森林と原野を走りぬけるのである。しかも,原木を積んだ大型トレーラーと幾度もすれ違う。すさまじい伐採が今なお続いているのである。
ダヌムバレーのロッジの宿泊料は1泊350リンギット(約1万2,000円)。大学卒の初任給が3万円から3万5,000円の国である。やはり,こういうところを利用できるのは裕福な欧米人や日本人だけである。
いずれの保護区を訪ねても,現地にある施設は外からの資本によるもので,住民は外来者からの悪影響は受けても,利益の還元はあまり期待できないのが現実である。沖縄島北部や西表島では,同様の問題は起こっていないのだろうか。
エコツーリズムの柱は,責任のあるツーリズム,自然環境の保全,地域社会への利益還元の3つであるが,さかんになればなるほど,矛盾が増す。本当の意味でのエコツーリズムがスタート出来るのはいつのことだろう。
ところで,エコツーリズムの本質とは何だろう。名の知れた公園や保護区へ出かけ,お目当ての動物を見るだけなら,昔からある名所旧跡を巡るツアーと変わりないではないか。ただ,対象が動物に代わっただけである。私たちは小さい頃,特に案内人を付けることもなく,ごく普通に小川や雑木林で遊んだ。魚や虫を捕り,花を摘みドングリを拾い,鳥を眺めたりもした。そんな中で季節を知り,こずえ越しに見える田畑から人の営みも学んできた。そして,自然の中につねに自分があった。エコツーリズムの原点は,そんな身近にあるものだと私は思う。

第49話 産業

第48話 エコツーリズム