翌朝は快晴。叔父さんからの情報があって、遅めの朝食を済ませてから、僕と土屋くんは甲府から増富ラジウム鉱泉への直通バスに乗った。
終点からは林道を歩く。積雪が30センチほどあって、重い荷物にはちょっと歩きにくい。木賊(とくさ)峠への分岐を左折し、金山山荘を通過。やがて、シラカバの林が広がる金山平(かなやまだいら)に着く。すでに正午をまわっていた。そして、クマザサの茂る樹林をぬけて瑞牆(みずがき)山荘へ。冬とは言え、まだ十分に明るい。積もった雪をのけて、入口の木戸を力一杯開け、さあ、。土屋くんと僕の、山小屋生活の始まりである。
ここは金峰山と瑞牆山の分岐点にあたり、シーズンには利用客も多い。金峰山の往復。山頂から水晶峠を経て昇仙峡へ下るルート。瑞牆山の岩場も素晴らしいし、山頂からの八ヶ岳眺望も超一級である。また、ここを起点として金峰山、甲武信(こぶし)岳と、奥秩父縦走をする登山者も多い。もっとも、山小屋の営業は、5月の連休から11月の勤労感謝の休日までで、あとは無人だ。ただ、冬期も利用させてもらうことは可能だ。
誰もいないと思っていたら、確かに人はいなかったのだが、イヌが1匹、裏のほうから出てきた。どうやら、ここに居ついているらしい。黒くて大きな、オオカミみたいなイヌだが、おとなしくて、「案内は、俺にまかせろ」なんていう風情があった。
僕らは、イヌの分まで食事を作ったが、イヌも忠実で、いつもそばにいた。金峰山の頂上に立った日も、二人は完全装備をしているのに、靴もはかずに(当たり前なのだが)、足から血をにじませながら付いてきた。ところが、5日たって山を下りる日、当然一緒に下りるのだろうと思っていたのだが,イヌは小屋の前で僕らを見送ってくれただけだった。
18話 たった1度の冬山登山(その4)。二人だけの山小屋生活。