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この、痛さを感じさせる夜の底冷えは何だろうか。だだっ広い小屋に二人だけだから、部屋が暖まらないのは当然なのだが、いやに陰気くさいし、無風で静寂そのものだ。小屋を出てみる。上弦の月で雪の山は昼間のように明るいが、その、あやしい照り返しが、かえって不気味だ。
実は、この一帯では数年間に4名の行方不明者が出ている。いずれも、この山小屋に宿泊した登山者で、しかも、全員が若い女性である。「予定日になっても帰宅しないから」と、家族から捜索願が出され、そのたびに山梨県警の捜索隊が情報集めと現地の捜索を行った。山小屋の主は、4名のそれぞれと最後に会った人だし、金峰山・瑞牆山に一番詳しい人だから、情報提供だけでなく、道案内として積極的に捜索に協力した。しかし、残念ながら、何の手がかりもなく、年月が過ぎていった。
ところが、土屋くんとの山小屋生活から数年後のことだった。事件は思わぬ方向に展開した。小屋の管理人“S”が逮捕されたのである。警察は、結構前から疑っていたようだが、Sの自供によれば、女性客が1人だけの夜、乱暴して口封じのために殺害したというのだ。その後、自供通りの場所から遺体が見つかった。いずれも、小屋のすぐ近くで、僕ら二人も、あるいは、その辺りに立ち止まって立ち小便を垂れていたかも知れないのだ。
僕は、夏や秋にも泊まったことがあるから、その管理人を良く覚えている。事件が発覚したから言うのではないが、無表情で異常なまでに冷たい目の人だった。
僕らの滞在中、ガツガツに痩せているのに、食べ物も欲しいそぶりを見せなかった忠犬。あるいは、浮かばれない4つの霊があることを、僕らに伝えたかったのかも知れない。
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